
Title: Obesity associated with increased brain age from midlife.
邦題: 肥満は脳の老化に関係する
Journal: Neurobiol Aging. 2016 Jul 27 ; 47:63-70.
Authors: Ronan L, Alexander-Bloch AF, Wagstyl K, et al.
Reviewer: Maki AOYAMA
【加齢に伴う脳の委縮に注目し,MRIで比較】
肥満の人は,そうでない人に比べ,様々な面で老化が早いことが知られている.以前より,肥満が脳の構造に影響を及ぼすことは示唆されていたが,正常な加齢に伴って生じる脳の萎縮にも肥満が影響を与えるか否かは明らかにされていなかった.肥満は,アルツハイマー型認知症のような神経変性疾患のリスクを高めるのではないかと考えられているが,これを直接示したデータはなかった.Ronanらは,MRIを使って,肥満の人の脳の構造的な老化,脳の容積の減少を標準体重以下の人と比較した.
分析対象としたのは,英国在住の20歳から87歳までの,健康かつ認知機能も正常なBMIが18.5以上の473人(平均年齢54歳,BMIの平均は26)である.これらの人々を,BMIが18.5以上25未満の「やせ/標準」群246人(51%),BMIが25以上30未満の「過体重」群150人(31%),BMIが30以上の「肥満」群77人(18%)に分類し,やせ/標準体重群(246人)と,過体重/肥満群(227人)の間で,脳の老化の程度を比較した.対象者全員の脳MRI画像につき,それぞれの白質の状態(白質の容積)と灰白質の状態(皮質の厚み,表面積)を数値化した.
大脳では神経細胞の細胞体は,主に脳の表面を覆う灰白質の中に存在する.一方,灰白質の内側にある白質には細胞体は存在せず,それらから伸びて他の神経細胞に信号を送る神経線維が存在している.
【過体重および肥満の人は,10歳分早く脳の容積が減少】
年齢に伴う白質の変化を調べたところ容積は40~50歳が最も多く,それ以降は徐々に減少していた.ただし,やせ/標準群と比較すると,過体重/肥満群の白質容積は40歳以降一貫して少なく,50歳の時点で,やせ/標準群の60歳の容積と同様であった.それ以降も,やせ/標準群に比べ10歳分ずつ早い容積の減少がみられた.
灰白質の皮質表面積と皮質厚も,年齢上昇と共に減少していたが,やせ/標準群と過体重/肥満群の間に明らかな差は認められなかった.キャッテル式知能検査を行ったところ,両群ともに認知能力は年齢が上昇するほど低下しており,55歳以降に低下速度が速くなっていた.認知能力の低下は両群とも同様に認められた.
健康で認知機能も正常な成人を対象とするこの研究で得られた結果は,大脳白質の容積の減少は過体重/肥満の患者で大きく,中年以降の脳の年齢は,やせ/標準群より10歳分老化が進んだ状態であった.本研究では,過体重や肥満が,直接白質の萎縮を引き起こしているのかどうかはわかっていない.また,過体重/肥満の人が減量した場合,白質容積にどのような影響が生じるかは不明である.しかし白質の容積の減少は,いずれ神経変性疾患や認知機能の低下を引き起こす可能性があるため,著者らは更なる研究が必要だと
考えている.