
Title: Dietary soy and natto intake and cardiovascular disease mortality in Japanese adults:
the Takayama study.
邦題: 本邦成人における大豆と納豆の摂取と循環器疾患の死亡リスク:岐阜県の高山スタディ
Journal: Am J Clin Nutr. published December 7, 2016.
Authors: Nagata C, et al.
Reviewer: Maki AOYAMA
目的: 岐阜大学の永田知里氏らは,納豆,大豆タンパク質,大豆イソフラボンの摂取と循環器疾患による死亡の関係を調べるため,岐阜県高山市の住民を対象とした疫学研究「高山スタディ」に参加した人々のデータを分析した.高山スタディとは,食事の内容やそれ以外の生活習慣と,ガンや他の慢性疾患の関係を調べる目的で1992年に岐阜県高山市に住んでいた35歳以上の男女を対象に行われた研究である.
内容: 納豆をはじめとする大豆製品の摂取は,循環器疾患の予防に役立つのではないかと考えられているが,大豆製品全般と循環器疾患の関係について検討したこれまでの研究では,一貫した結果は得られていない.その一方、大豆由来の発酵食品である納豆は,他の大豆製品とは異なり,血栓を溶かす作用を持つ酵素であるナットウキナーゼを含んでいる.血栓の形成はさまざまな循環器疾患の原因となることが知られており,納豆が循環器疾患のリスクを下げると期待されているが,今まで納豆と循環器疾患の関係について検討した大規模な研究は実施されていなかった.
1992年の時点で質問票を用い,対象者の年齢,性別,配偶者の有無,学歴,身長,体重,飲酒を含む過去1年間の食事の内容,喫煙習慣,運動習慣,病歴など,さまざまな情報を収集した.大豆製品に関しては,豆腐,味噌,大豆,納豆,豆乳,高野豆腐,油揚げ,厚揚げ,五目厚揚げ(野菜または海草入り)などを過去1年間にどの程度摂取したかを尋ねた.
調査対象となった男性1万3355人,女性1万5724人を1992年から2008年10月1日までの16年間の死亡の有無と死因を調査した.追跡期間中に高山市から転出したのは1912人(6.1%)であった.調査の結果,1678人が循環器疾患で死亡していた.そのうち677人は脳卒中,308人は虚血性心疾患(心筋梗塞,狭心症,虚血性心不全など)で死亡していた.
納豆の摂取量が最も少なかった人から最も多かった人までを順番に並べ4等分した.最も摂取量が多かった上位25%群(7269人,女性の割合は57.7%)の納豆摂取量の中央値は1日に7.3g,続いて摂取量が多かった25%(7270人,64.9%)では2.7g,次の25%(7270人,56.3%)では1.4g,最も摂取量が少なかった下位25%(7270人、37.4%)は0g,全く摂取していなかった.
一般に市販されている納豆は,四角い容器に入っているタイプ(通常は3パックまとめ売り)の場合,1個当たりの重量は40g~50gで,丸いカップ入りは1個当たり30g入りのため,上位25%群のちょうど中央に位置する人の摂取量(中央値)は,四角いタイプの納豆を1週間に1パック程度摂取したと考えられる.また,下位25%群の少なくとも半分は,1年間に納豆を全く食べなかったと考えられる.
納豆摂取量の下位25%群を参照として,残り3群の循環器疾患による死亡のリスクを検討したところ上位25%群では死亡リスクが25%低いことが分かった.
大豆タンパク質摂取量,大豆イソフラボン摂取量,納豆以外の大豆製品からの大豆タンパク質摂取量,納豆以外の大豆製品からの大豆イソフラボン摂取量についても,同様に分析したが,循環器疾患による死亡に対する影響は認められなかった.
結論: 循環器疾患による死亡のうち,脳卒中による死亡のリスクは,大豆タンパク質摂取量と納豆摂取量が多いほど低く,下位25%と比較した上位25%群の脳卒中死亡リスクは,大豆タンパク質では25%,納豆では32%低くなっていた.
脳卒中の内訳を詳細にみると,虚血性脳卒中(脳梗塞と一過性脳虚血発作)による死亡が393人,出血性脳卒中(脳内出血とくも膜下出血)による死亡が242人であった.
納豆を多く摂取する人(上位25%群)では,虚血性脳卒中による死亡のリスクも33%低下していたが,出血性脳卒中による死亡に関しては,納豆との関係は明確にはならなかった.しかし,大豆タンパク質の摂取が多いほど,出血性脳卒中による死亡のリスクが低下する傾向が認められた.
今回の高山スタディの結果は,納豆の摂取が循環器疾患死亡のリスクを下げる可能性を世界で初めて示したものである.著者らは,他の集団を対象にして,大豆製品,大豆タンパク質,納豆の摂取量と循環器疾患の関係を調査し,今回の結果を確認する必要があると述べている.